I Am A Rock


at midnight Feb.21.'97 サイモンとガーファンクルの「I Am A Rock」を久しぶりに聞く


会社の仕事で新大阪に泊り込みで仕事をしている時だった。
その日の仕事が終わりホテルに入り、BGMをつけるとそこに流れてきたのは、 サイモンとガーファンクルの「I am a Rock」。
久しぶりに聞くサイモンとガーファンクルは甘く切なく、私の心に響いた。

A winter's day,
In a deep and dark December.
I am alone.
Gazing from my window to the streets below,
On a freshly fallen silent shroud of snow.
I am a rock,I am an island.

そっと部屋のカーテンを開け、ホテルの窓から空を見上げれば、この時期にはめずらしく、折しも雪が降りだしていた。
交差点を行き交う人々はコートの衿を立て、舞い降りてくる雪を見上げてはうつむき、小走りに去って行く。
白く積もった雪が信号に照らされて赤や緑に輝き、まるで暗闇の中にぽっかりと空いた穴のようだ。

I've built walls.
A frotress deep and mighty.
That none may penetrate.
I have no need friendship,friendship couses pain.
It's laughter and it's loving I disdain.
I am a rock,I am an island.

人は傷つくことを恐れて壁を作り、要塞に閉じこもってしまいがちだ。
友情だって時には痛みを伴う。
そんなことで私も青春の一時期には友情や愛やそういった類の感情を軽蔑したことがあった。
あれはいつのことだったろう。

Don't talk of love.
But I've heard the word before.
It's sleeping in my memory.
I won't disturb the slumber of feelings that have died.
If I never loved I never would have cried.
I am a rock,I am an island.

確かに愛することをしなければ、心を固く閉ざしてしまえば、もう、悲しむこともないだろう。
T.S.Eriotの詩に「Waste land」という名作がある。
「4月はもっとも残酷な月。死の大地から眠っている球根を揺り動かす」というのだ。
せっかく眠りについているものを揺り動かして、無理やりに起こしてしまう。
固く閉ざした死の大地からはやがて芽が出てしまう。
やさしかった死の床から再び厳しい生の世界に連れ戻されてしまうのだ。
愛を語ることは、心の奥底に眠っている何かを呼び起こす。おお、愛を語ることは苦しい。

I have my books,
And my poetry to protect me.
I am shielded in my armor.
Hiding in my room,safe within my womb.
I touch no one and no one touches me.
I am a rock,I am an island.

自分に都合のよい言葉の集まりは本当に詩とよべるのだろうか?
血を流し、傷つく言葉だって詩にはある。
子宮の中に逃げ込んでいることはとてもたやすいことだが、それで本当に生きていると言えるだろうか?

And a rock feels no pain.
And an island never cries.

そう、岩は痛みを感じない。島は決して泣いたりはしない。
だが、それらは生き物ではないことも確かだ。
人は心を開いてこそ生きている価値がある。
そうすることは、とても苦しいことかもしれない。
しかし、人は自分を開示し、自分にも他人にも開示することで初めて本当の自分を知り、 本当の自分を知ることで他人を知ることが出来る。
痛みを伴うかも知れないが、そうやって得た心の交流は痛み以上のものをもたらす。

サイモンとガーファンクルの曲は一般的にオブラートに包んだ苦い薬のようなもので、優雅なメロディの中に とてもシビアな内容が盛り込まれていることが多い。
久しぶりに聞いて、なんだか切ないものが込み上げてきた。
愛を語ることもなければ、友情を語ることもない毎日。
そして今、私には自分を守る詩もなくなっている。
青春時代、自分自身と戦っていたことがとても素敵なことのように思えてきた。
いま、私はこんなに真剣に自分と戦うことをしているだろうか?
戦うべき自己を持っているか?

私は岩にはならない。島になることはごめんだ。

by Kenichi Asano

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